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京都地方裁判所福知山支部 昭和54年(ワ)50号 判決 1987年5月28日

原告 有限会社 山部工業

右代表者代表取締役 山部一男

右訴訟代理人弁護士 田中実

被告(被補助参加人) 福知山市

右代表者市長 塩見精太郎

右訴訟代理人弁護士 芦田禮一

右訴訟復代理人弁護士 益川教雄

補助参加人 アロン化成株式会社

右代表者代表取締役 江口活太郎

右訴訟代理人弁護士 小林多計士

右同 田中久

右同 比嘉廉丈

右輔佐人 野本幾三

主文

一  被告は原告に対し金三一九六万六二四九円及び内金三〇六七万三〇〇九円に対する昭和五四年一二月二日から、内金一二九万三二四〇円に対する昭和五五年七月二五日から、各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用のうち参加によって生じた部分は補助参加人の負担とし、その余は五分し、その二を原告の負担とし、その三を被告の負担とする。

事実

第一原告の求める裁判

一  被告は原告に対し金五六九七万五一四二円及び内金五〇〇〇万円に対する昭和五四年一二月二日から完済に至るまで年六分の割合による金員、内金一二〇万五一四二円に対する昭和五五年七月二五日から完済に至るまで年六分の割合による金員、内金五七七万円に対する昭和五五年七月二五日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  仮執行の宣言

第二被告の求める裁判

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

第三原告の請求原因

一  原告は昭和三〇年一二月二六日設立された有限会社であって、建設工事請負、上下水道工事、衛生、暖冷房工事施工等を行うことを目的としている。原告は被告から福知山市上水道公認工事業者の指定を受けている。

原告は、訴外株式会社植村組と建設共同企業体契約を結び、同社と共同して、昭和四九年一〇月三一日被告より佐賀簡易水道新設事業工事(以下「本件新設工事」という)を請負代金一億六五〇〇万円で請負った。このうち原告が管工事を、株式会社植村組が土木工事を、双方が電気工事を行うことになった。

この工事は被告の発注により京都府福知山市佐賀地区に簡易水道を設置するものであり、工事請負契約書に附属する別冊設計書、図面及び仕様書に従って行なわれることとされていた。

二  原告及び株式会社植村組は本件新設工事を施工し、昭和五一年三月頃完成させ、同年四月一日被告の最終検査を経て被告に引渡し、同日から水道の供給が開始された。ところが、その後約三か月経過の昭和五一年六月中頃地元住民から漏水しているとの通報を受け、原告が調査したところ、原告が布設した口径一〇〇ミリメートル(以下単に「ミリ」と表示してミリメートルをさす)の水道用硬質塩化ビニール管を連結する水道用硬質塩化ビニール樹脂製ソケット(継手)(以下単に「継手」という)に縦に亀裂が生じており、この部分から漏水していた。そこで原告は亀裂の生じたその継手を交換した。

その後も各所で漏水が生じ、いずれも口径一〇〇ミリ又は一部には口径七五ミリの継手に亀裂が生じたことが原因であり、昭和五一年七月から昭和五五年四月まで原告が亀裂した継手の交換又は継手に袋ジョイントをかぶせる工事をして補修をした(以下これを「本件補修工事」という)。本件補修工事の費用は別紙第一の一覧表のとおりであり、総額五一二〇万五一四二円に達した。

三  ところで、被告は本件新設工事の請負契約にあたり、工事設計書第二四項で配水管として口径一〇〇ミリの水道用硬質塩化ビニール管六三九五メートルを布設し、これに同口径の継手一二六七個を使用するものと定め、同第二五項で配水管として口径七五ミリの同様ビニール管を三八〇一メートル布設し、これに同口径の継手七六二個を使用するものと定め、仕様書において原告が工事で使用すべきビニール管及び附属品(継手もこれに含まれる)はメーカーを「積水、久保田、三菱、シーアイ化成、アロン化成」と指定した。

四  そこで原告は、昭和四九年一一月被告の担当課長である簡易水道課長足立敏郎に対し本件新設工事においてはビニール管及び附属品はアロン化成株式会社(即ち補助参加人)の製品を使用すると報告し了解を得た上で、訴外アオイ管材株式会社から仕入れた補助参加人製造の水道用硬質ビニール管及び継手を使用して工事をした。従って、ビニール管及び継手に補助参加人の製品を使用することは注文者である被告の指図に従ったものであり、原告は継手の亀裂による漏水事故につき本件新設工事の請負人として瑕疵補修義務を負わない。

五  本件で生じた継手の亀裂はほぼ全部補助参加人の工場で継手を製造する際の金型への塩化ビニール樹脂の注入口即ちゲートもしくはこの附近が軸方向に割れている(縦割れである)ことからして、その原因は補助参加人がその工場において水道用硬質塩化ビニール樹脂で継手を製造する際、射出成形時に大きい残留応力を継手自体に存在させるという製造過程における過誤のためと考えられ、原告の本件新設工事の施工上の瑕疵ではない。仮に継手の製造過程に過誤がないとしても、継手に水道用配管としての必要な強度が不足していたため亀裂が生じたものであり、原告の責任によるものではない。

六  本件簡易水道には設計上の過誤がある。本件簡易水道は、由良川河畔の水源から取水した地下水をポンプで加圧し送水管でいったん私市中央配水池へ揚水し、ここから流下して私市地区の各需要家へ給水すると共に更に報恩寺ポンプで加圧して揚水兼用配水管で一部は報恩寺配水池へ揚水し他の一部は更に印内ポンプで加圧して印内地区の各需要家に給水すると共に印内配水池へ揚水し、他の残りは山野口ポンプで加圧して山野口地区の各需要家に給水すると共に山野口配水池へ揚水する仕組となっている。

ところで各配水池の低水位が出水管の中心高附近にあることと、末端に近い印内、山野口各ポンプの能力が中央の報恩寺ポンプの能力と同じに設計されていたことのため、末端の印内、山野口のポンプが需要に対応して働き多量の水を送水し(取り出し)た場合、中央の報恩寺ポンプによる加圧給水が及ばず報恩寺配水池の水位は低水位に近づき、その流出水口は空気を混入することになり、印内ポンプ更には山野口ポンプがキャビテーションを起こす。このような状況が断続的に繰返され、水泡を含んだ水の脈動圧によって本件継手に異常な圧力がかかり亀裂を生ぜしめたものである。よって、本件継手の亀裂は原告の責任に属さない。

七  原告のなした本件補修工事は、当初は原告が本件水道の管理者である被告の公営企業部より個別的な補修の発注を受け、被告との間で工事代金の額を具体的に定めず、後日確定する適正な金額をもって工事代金とするとの定めで、文書によらない補修工事請負契約を締結して施工したものである。そして、原告は施工後にその工事金額を被告の公営企業部に示し、適正額であることにつき公営企業部の担当課長である簡易水道課長の承認を得た。

その後、昭和五三年六月二九日原被告及び補助参加人の協議の結果、「(一)補修工事は原告が行う。(二)工事代金の額が適正かどうかの確認は被告が行い、被告が原告に工事代金を支払う。(三)工事代金は最終的には補助参加人が負担する。」との合意が成立した。別紙一覧表記載の本件補修工事代金合計五一二〇万五一四二円は被告が適正であると確認したものである。

八  よって、原告は被告に対し右補修工事請負契約に基づき本件補修工事代金五一二〇万五一四二円の支払を求め、かつ、内金五〇〇〇万円につき本件訴状送達の日の翌日である昭和五四年一二月二日から完済に至るまで商事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求め、残金一二〇万五一四二円につき請求の趣旨拡張の申立書副本を被告訴訟代理人が受領した日の翌日である昭和五五年七月二五日から完済に至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

九  仮に、本件補修工事請負契約の合意が存しなかったとしても、被告は原告に対し補修工事を強要した。被告の公営企業部管理者芦田豊は、被告が水道事業を行う者であり、原告が被告の水道事業における指定業者であり被告の指導に反することはできないという弱い立場にあることに乗じ、昭和五三年六月二九日原告を指導して補修義務を負わない原告に対し本件補修工事をするよう強要した。また同日以前の工事については公営企業部簡易水道課長足立敏郎が同様に被告に強要したものである。このため原告は余儀なく本件補修工事をし、別紙第一の一覧表のとおり五一二〇万五一四二円を負担し、同額の損害を被った。

よって、原告は被告に対し国家賠償法による賠償として金五一二〇万五一四二円の支払を求め、かつ、これに対する前項と同様の年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

一〇  仮にそうでないとしても、原告はその義務に属さない本件補修工事をなし別紙第一のとおり五一二〇万五一四二円の損失を被り、逆に被告はこれにより本件佐賀簡易水道の設置者として自らなすべき補修工事を免れ同額の利得をし、その利得は現に存在している。

よって、原告は被告に対し不当利得返還として金五一二〇万五一四二円の支払を求め、かつこれに対する第八項と同様の年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

一一  原告は本件訴訟提起後被告の応訴及び補助参加人の補助参加申し出をみて、京都弁護士会所属弁護士田中実を訴訟代理人に選任して本件訴訟の追行を委任し、同弁護士に対し弁護士費用の支払を約した。原告の請求に対し被告が支払おうとせず争うのは明らかに不当な応訴態度であり、これがため原告は弁護士に訴訟委任せざるを得なくなったのであるから、被告の応訴は不法行為を構成し、被告は原告の弁護士費用の損害を賠償すべきものである。

京都弁護士会報酬規程によると、原告は同弁護士に着手金及び報酬として各二八八万五〇〇〇円を支払わねばならない。右合計五七七万円は被告の不法行為によって原告が被った損害であるので、原告は被告に対し損害賠償として金七七〇万円及びこれについて請求の趣旨拡張の申立書副本を被告訴訟代理人が受領した日の翌日である昭和五五年七月二五日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第四請求原因に対する被告の認否及び反論

一  請求原因一項の事実は認める。

二  同二項のうち原告のした本件補修工事の費用は不知、その余の事実は認める。

三  同三項の事実は認める。

四  同四項のうち原告が訴外アオイ管材株式会社から仕入れた補助参加人製造の水道用硬質ビニール管及び継手を使用して本件新設工事をしたことは認めるが、その余の事実は否認する。

五  同五項のうち本件で生じた継手の亀裂がほぼ全部補助参加人の工場で継手を製造する際の金型への塩化ビニール樹脂の注入口即ちゲートもしくはこの附近が軸方向に割れている(縦割れである)ことは認めるが、補助参加人の製造過程に過誤があること及び継手に水道用配管としての必要な強度が不足していることは不知、原告の本件新設工事の施工上の瑕疵がないことは否認する。

六  同六項の事実は否認する。

七  同七項の事実は否認する。原告は昭和四九年一〇月三一日被告と締結した本件新設工事請負契約において瑕疵補修責任を約定しており、これに基づいて本件補修工事を施工したものである。なお、原告は本件補修工事に関連して補助参加人から合計一九二三万八八九三円を受領している。この事実からして、原告は被告に対しては本件補修工事について何らの請求権もないと自認していたと解される。

八  同八項の請求は争う。

九  同九、一〇項の事実は否認し、その請求は争う。

一〇  同一一項のうち原告が本件訴訟提起後弁護士田中実を訴訟代理人に選任して本件訴訟の追行を委任したことは認めるが、被告の応訴が不法行為を構成することは否認し、その余の事実は不知、請求は争う。

第五請求原因に対する補助参加人の認否及び反論

一  請求原因五項のうち、継手の亀裂の原因が補助参加人の工場における継手製造の際射出成形時に大きい残留応力を継手自体に存在させるという製造過程における過誤があったためとの点及び継手に水道用配管としての必要な強度が不足していたためとの点並びに原告の本件新設工事の施工上に瑕疵がなかったことは否認する。

二  本件継手は補助参加人が日本工業規格(以下「JIS規格」という)に従ってJIS認定工場で製造したJIS規格品であり、かつ財団法人日本水道協会の品質検査の合格品である。正常な工事施工及び使用によっては本件の如き継手の破損事故の発生はあり得ない。

三  補助参加人は本件と同種の継手を昭和四九年中に一〇〇ミリの継手は六万〇四二四個、七五ミリの継手は六万九二三八個合格品を製造し、昭和五〇年中に前者を六万六九一〇個、後者を一〇万二四四一個合格品を製造し、すべて販売したが、原告以外からは本件の如き苦情の申し出は全くない。

四  水道の設計が誤っているときまたは水道管布設工事の施工が適切になされないときは、継手に異常な応力が負荷され、水道使用中に継手の破損が生ずる。本件で原告はビニール管と継手を接合する際すべてにおいて過度の差し込みをなしており、また生曲げ配管をしている個所がある。このため異常な応力が発生し、水道使用中に継手に亀裂が生じたものである。TS工法による接合では過度の差し込みをしてはならず、また生曲げ配管をしてはならないことは水道工事業者の初歩的かつ必須の注意事項であるのに原告はこれに反した施工をしており、本件は原告の施工上の過誤に原因がある。

第六証拠《省略》

理由

一  争いのない事実

請求原因一項の事実、原告がした本件補修工事の費用を除く請求原因二項の事実、請求原因三項の事実、同四項のうち原告がアオイ管材株式会社から仕入れた補助参加人製造の水道用硬質ビニール管及び継手を使用して本件新設工事をした事実、同五項のうち本件で生じた継手の亀裂がほぼ全部補助参加人の工場で継手を製造する際の金型への塩化ビニール樹脂の注入口即ちゲートもしくはこの附近が軸方向に割れている(縦割れである)事実、は当事者間に争いがない。

二  注文者の指図について

《証拠省略》によると、原告は本件新設工事にあたり、アオイ管材株式会社と協議のうえビニール管及び継手は補助参加人の製品を使用することに決め、昭和四九年一二月頃被告の簡易水道課長足立敏郎にその旨報告したものと認められるが、右は原告が請負人として被告の指定するメーカーの中から補助参加人の製品を選択したというに過ぎず、これが注文者たる被告の指図に該当するものとは言えない。よって、請求原因四項のうち注文者の指図の主張は採用できない。

三  継手の亀裂

《証拠省略》によると、(一)継手の亀裂は原告の布設した口径一〇〇ミリのビニール管の同口径の継手の大部分で発生しており地域によるかたよりがないこと、(二)亀裂はゲート部分又はその近くで発生しており、これと全く関係のないものは見当らないこと、(三)亀裂発生の頻度が高く、偶発的発生ではないこと、(四)本件新設工事完成(通水)後一定期間経過した後に発生しており、クリープ破壊現象に類すること、(五)亀裂はいずれも継手の軸方向に走っており、円周方向の応力による割れであること、(六)原告がした地中の配管施工の状況(土木工事)に異常は見当らないこと、(七)本件水道のうち石綿セメント管の部分には漏水はなくビニール管の部分で漏水が生じていること、(八)ビニール管の中でも口径一〇〇ミリの継手で亀裂が多発しているのに、口径七五ミリの継手には亀裂が少なく、三〇ミリ、二五ミリの継手には全く異常がないこと、(九)本件水道の系統は別紙第二のとおりであり、水源のポンプの位置が標高約二六メートル、最高位の印内配水池の標高が約一七七メートルで標高差約一五〇メートルあるが、継手の亀裂は標高の高い部分でも平均的に生じており、静水圧の異常とは考えられないこと、以上の事実が認められる。この事実によると、補助参加人が製造し、原告が本件新設工事で使用した一〇〇ミリ及び七五ミリの継手の強度に問題があるものと考えられる。

四  継手の製造と規格

《証拠省略》によると、原告が本件新設工事で使用した一〇〇ミリ及び七五ミリの継手は補助参加人の福山工場で製造されたもので、同工場は水道用硬質ビニール管及び継手の製造につきJIS規格工場の表示を許可されていた(同工場は現在では尾道工場に移転されている)こと、水道用硬質塩化ビニール管及び継手はいずれも塩化ビニール樹脂を原料とし、これに安定剤と顔料を混合させ、射出成形機で金型を用いて成形し、仕上作業を経て完成品となり、検査を経て梱包出荷されているものであること、昭和五〇、五一年当時の継手のJIS規格の要旨は別紙第三の「日本工業規格」のとおりであるが、本件新設工事に使用された継手はJIS規格に合致し、日本水道協会の検査を経た製品であること、以上の事実が認められる。

本件全証拠によるも、補助参加人が福山工場で継手を製造する際、塩化ビニール樹脂と安定剤との配合比率を誤ったとか、規定外の異物を混入させたとか、加熱冷却を誤ったとか、成形品に規定外の衝撃を加えたとか等の具体的な過誤を犯したものと認めるに足りない。右のような過誤があったとすれば、原告が使用した継手だけでなく、他で使用された継手、更には同時期に製造された筈のビニール管や他のサイズの継手にも何等かの欠陥があるものとして問題が表面化すると思われるが、このような事実も見当らない。

五  接合による継手ゲート部への応力の集中

《証拠省略》によると、水道用硬質塩化ビニール管と継手とを接合する工法としてJIS規格に基づきTS(テイパードソケット)工法が定められていること、TS工法は先ず管を継手の受口に差し込んでこれ以上挿入できない位置(O点)を確認した上でいったん管を継手から抜き、次に接合予定部の管の外周と継手受口の内周に接着剤を均一に薄く塗布し、この接着剤の溶剤によって管の外周及び継手受口の内周が幾分膨潤させられるので再び管を継手に差し込むと当然に先程のO点を越えて深く入る(P点)が、力を加えて押し込むと塩化ビニール樹脂の弾性によってP点を越えてストッパーの近く(S点)まで差し込むことができ、施工にあたり必ずしもS点まで入らなくとも差支えないとされていること、昭和五〇、五一年当時のJIS規格によるTS工法の施工の解説は別紙第四のとおりであること、ところで、本件亀裂を起こした継手はゲート附近に応力が集中していること、管がJIS規格の許容最大外径で継手が許容最小内径で管を継手の最深部(ストッパー)まで差し込んだ場合には継手に円周方向の著しく高い応力を生じさせることになること、本件亀裂を起こした継手はJIS規格の最低の厚さをとった製品であり規格品の中では強度が弱い部類に属しており本件水道に使用するには適切でないこと、原告は本件新設工事にあたり管を継手のストッパーの近くまで差し込んだこと、以上の事実が認められる。《証拠判断省略》

以上によると、本件継手の亀裂の原因には、少くとも、一つは補助参加人の製造した継手がJIS規格品であるが強度が弱い部類に属していること、一つは原告のした工事が管の差し込みすぎであったこと、が指摘される。このほか本件水道の設計が適正であるかという問題があるが、後述するように本件審理ではこの点は判断しない。

六  JIS規格の改正

《証拠省略》によると、口径七五、一〇〇、一五〇ミリの水道用硬質塩化ビニール管と継手については日本水道協会が規格を定め、これに従った製品が水道の用に供され、昭和四六年八月にはJIS規格としても制定された(一〇〇ミリ管は長さが五メートル、一〇〇ミリ継手は長さが二〇センチメートル)が、既に昭和四〇年代に継手部分に破損事故が生じたことから、継手の強度不足と施工法が問題視され、日本水道協会では昭和五〇年五月一日専門委員会を設置して規格改正作業をすることを決め、同年一〇月から昭和五三年四月まで同専門委員会及び小委員会で継手の強度を高めるための規格改正案を審議し、昭和五四年にはこの成案に従ってJIS規格も改正されたこと、改正点は、(一)管と継手の接合の容易さ及び接合時の受口奥部に発生する集中応力の緩和を目的として、継手の受口部のテイパー(先細り状の内部の傾斜)を若干緩和し、(二)継手受口端部及び受口奥部の厚さを約三〇パーセント増加し、管と継手の接合時に発生する集中応力に対する継手の強度の向上を図ったこと、補助参加人は職員を日本水道協会の右専門委員会及び小委員会に委員として派遣しており、継手事故の情報及び継手の強度不足の問題を原被告より早く掌握する立場にあったが、その成果が本件新設工事に反映されなかったこと、以上の事実が認められる。

七  管と継手の接合についての原告の責任

原告が本件新設工事にあたり管を継手のストッパーの近くまで差し込んだことは前示認定のとおりである。しかしながら、前示のとおり、TS工法についてのJIS規格の解説も、「施工にあたり必ずしもS点まで入らなくとも差支えない」としているのであって、S点まで入れてはいけないと禁止しているものではない。《証拠省略》によると、補助参加人が発行したカタログでも、「O点からP点までは膨潤層の流動によって挿入され、P点から更に力を加えて押し込むと塩化ビニール樹脂の弾性によって管は絞られ、継手は拡げられストッパー(S点)近くまで差し込まれます。」と解説し、S点まで差し込んではならないという禁止を表示していない。また《証拠省略》によると塩化ビニール管、継手協会が昭和五〇年一〇月に発行した規格改正のための参考資料においても「七五ミリから一〇〇ミリのビニール管の挿入は機械器具を利用したプーラー接合が一般化され、継手の奥のストッパーまで差込まれる結果が多くなっている。」と指摘していることが認められる。従って、本件新設工事で原告がした管と継手の接合の施工はTS工法についての当時のJIS規格の解説に合致し、一般の例に従ったものであり、原告の責に帰すべきものではない。《証拠判断省略》

八  生曲げ配管

補助参加人は本件継手の亀裂の原因の一つとして、原告が施工にあたり生曲げ配管(直管を物理的な力で無理に曲げて配管をし、ために継手に曲げ応力が集中すること)をしていると主張する。《証拠省略》中には亀裂の生じた継手には曲げ応力により変形が生じているとの指摘がある。確かに甲第七号証が示す一つの継手は変形しているものと認められる。しかしながら本件数多くの継手は応力の集中により亀裂したのであるから、変形が生じていることは不思議ではない。この変形が生曲げ配管によって生じたという証拠はない。《証拠省略》によると一〇〇ミリ管の施工の場合長さ五メートルの管を継手で中継するとき三五センチメートルまでずれが生ずることが許容されているというのであるが、本件でこの許容量を越えた生曲げ配管がなされたという証拠はない。むしろ、《証拠省略》によると原告のした配管及び接合について異常は見当らないものと認められるのであって、補助参加人の右主張は採用できない。

九  原告の請負人としての瑕疵補修責任

以上によると、本件亀裂した継手は補助参加人がJIS規格により製造し、被告が請負契約にあたり発注者としてメーカー指定した中から原告が選択したものであるが、原告の請負人としての責任に属する原因によって破損事故を起こしたものではないと解される。原因はむしろ継手の強度自体が不足していたこととJIS規格によるTS工法の解説が不備であり補助参加人の工法解説にも不備があったことに在ると解される。このほか、原告主張の本件佐賀簡易水道に設計上の過誤があったのではないかとの点については、前示のとおり原告に請負人としての責任がないと判断する以上設計上の問題で被告の責任の有無を判断する必要はない(しかも、仮に設計上の誤りがあったとして何故継手に集中的に亀裂が生じ他の部分では事故が生じていないかという点を考えると、当然前示のとおり継手の強度不足の問題に帰する)ので、この点については判断しない。

《証拠省略》によると、植村組山部工業建設共同企業体は昭和四九年一〇月三一日被告と締結した本件新設工事の工事請負契約書の第一九条において、引渡の日から一年間工事目的物の瑕疵を補修し又は瑕疵によって生じた損失に対して賠償することを約し、但し、石造、土造、レンガ造、金属造、コンクリート造等これに類するものによる工作物もしくは地盤の瑕疵及びこれによる損失については二年間とすることを約したものと認められる。

しかしながら、前示のとおり原告は配管の施工にあたり瑕疵のある工事をしたものではなく、本件継手の亀裂は原告の責任に属さないのであるから、右約定によっても、本件継手の亀裂につき原告に補修義務があると解するのは相当でない。本件継手の亀裂による漏水は右約定に言う「瑕疵」に該当しないものと考えられる。

よって、原告は本件継手の亀裂につき、本件新設工事の請負人として瑕疵補修義務を負わない。

一〇  原告のした補修工事

《証拠省略》によると、原告は本件漏水事故が発生して昭和五一年七月から昭和五五年四月一八日まで(即ち一部は本件出訴後においても)漏水に対応して継手の取替や袋ジョイントの設置等の補修工事をしたもので、その工事費用は別紙第一のとおり合計五一二〇万五一四二円に達したものと認められる。他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

一一  補修契約の合意

《証拠省略》を総合すると次の事実が認められる。

即ち、原告は昭和五一年七月以前に地元から漏水の通報を受け、被告には通知することなく漏水個所の路面を掘って継手の亀裂部分をさぐりあて、亀裂した継手を交換したのを手始めに漏水が出る度に自力で補修工事をし、当初のうちは被告と補修工事について協議していなかった。その後原告は補修を続けるうち漏水の原因が継手の亀裂にあると考え、被告にそのことを知らせたが、被告は原告には請負人として瑕疵補修義務があるとの考えの下に原告に補修を指示したもので、原被告間に補修工事に関する請負契約や費用負担の協議はなされなかった。こうするうち引渡から二年を経過したが、なお漏水事故が発生し、補修完了の目途が立たず、漏水による夏場の給水不足の事態も懸念された。昭和五三年六月二九日福知山市水道庁舎に福知山市公営企業部管理者芦田豊、簡易水道課長足立敏郎、補助参加人の取締役広川貞市、原告代表取締役山部一男、アオイ管材株式会社代表者、等が集って善後策を協議した。この席で原告はこれまでに原告が実施した漏水対策の補修工事の代金を支払ってもらいたいこと、即時支払ってもらわないと原告は倒産すること、今後の補修は原告の義務に属さないし責任をもてないので原告は補修工事をしないことを主張した。被告は継手の亀裂による漏水であるので補修工事の費用は継手製造メーカーである補助参加人が原告に支払ってもらいたいこと、今後漏水が生じないように十分対策をとってもらいたいことを主張した。補助参加人は継手の亀裂から生じた漏水であることは認めるが、製品に欠陥があったとは思えないこと、補修工事代金の全額を補助参加人が負担することはできないこと、補助参加人は水道布設業者ではなく自ら補修工事を施工することができないので、補修工事はひき続き原告に実施してもらいたいことを主張した。結局同日の協議の結果、(一)補助参加人は原告の希望を入れて至急原告にその主張する約九〇〇万円を支払い、今後補修工事の費用を全額負担するかどうかは別として相当部分を補助参加人が負担し、その支払方法は補助参加人がアオイ管材株式会社を通じて被告に支払う、(二)補修工事はひき続き原告が実施する、(三)補修工事代金額が適正であることを確認するため原告の提出する工事代金請求書を被告がチェックし、その請求書を補助参加人に送付する、ということで了解に達したが、この合意を文書に作成しなかった。補助参加人は、後日原因が解明され費用負担者が明確になるまでの立替払いとするとの留保をつけて、アナイ管材を通じて原告に昭和五三年六月三〇日に金九二三万八八九三円、同年九月二九日に金一千万円、合計一九二三万八八九三円を支払った。被告は原告の製造した継手が欠陥商品であると判断し、同年六月末に公営企業部管理者芦田豊名義で福知山市公認水道業者に対し被告の水道事業においては補助参加人の製品の使用を禁止する旨通知した。補助参加人はこれを不服として同年一〇月以降は原告に対し補修工事の代金を支払わなくなった。以上の事実が認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

右認定事実によると原被告間で被告が原告に対し補修工事代金を支払う旨の合意は成立していないと言わざるを得ず、原告の請求原因七項の主張は採用できない。

一二  補修強要の不法行為

原告が被告の水道工事の指定業者であることは当事者間に争いがなく、従って、原告は被告の意向に逆うことが難しい立場にあったものと認められる。また、昭和五三年六月二九日被告の公営企業部管理者芦田豊が原告に対し補修工事を原告がひき続き実施するよう求めたことは前示認定のとおりである。

しかしながら、原告はこれのみで本件補修工事をしたのではなく、前示のとおり補助参加人が補修工事の費用の相当部分を負担することを約し昭和五三年六月三〇日に金九二三万八八九三円を、同年九月二九日に金一千万円を原告に支払ったため、原告が補修工事をしたと解するのが相当であり、右芦田豊に補修強要の不法行為があったと言うに足りない。

また、昭和五三年六月二九日以前の補修工事についても、前示のとおり原告は被告に指示される前から本件新設工事の請負人の立場で自発的に補修工事に着手しているのであって、本件全証拠によるも簡易水道課長足立敏郎が原告に補修を強要した事実は認められない。

よって、請求原因九項の不法行為による損害賠償請求は認容することができない。

一三  不当利得の返還

前示のとおり、原告は本件新設工事の請負人としての補修義務を負担せず、かつ原被告間に本件補修工事の請負契約が締結されていないのに、自己の出捐において本件補修工事をしたものである。他方、被告は本件佐賀簡易水道施設の設置者であり、本件の如き工事請負人の責任に属しない漏水事故が発生した場合自らの負担において補修をすべきところ、原告の本件補修工事によって自らの補修実施を免れたものと解される。よって、原告は法律上の原因がないのに本件補修工事を実施してその工事代金五一二〇万五一四二円に相当する損失を受け、被告はこれに相当する工事の実施を免れて同額の利得を受け、佐賀簡易水道は現在も給水事業を行っているのでこの利得は現に存在しているものと解される。

ところで、原告は前示のとおり本件補修工事に関し補助参加人から一九二三万八八九三円の支払を受けたのであるから、原告の受けた損失はこれを控除した三一九六万六二四九円と解するのが相当である。本件訴状副本が昭和五四年一二月一日被告に送達されたことは本件訴訟手続上明白であり、原告のした本件補修工事のうち昭和五四年一二月分から昭和五五年四月分まで(その工事代金額は一二七万三二四〇円)はこれより後のことである。後者については昭和五五年七月二四日請求の趣旨拡張申立書副本を被告訴訟代理人が受領したことによって被告に対する請求があったものと解される。

不当利得返還請求債権は商行為によって生じた債権ではないので、その遅延損害金の利率は民法所定の年五分をもって相当と解する。

一四  弁護士費用の損害賠償

原告は被告の応訴が不法行為を構成すると主張するが、本件は補助参加人の製造した継手の強度が弱く、当時JIS規格に基づき一般になされた接合の工法の不適切とあいまって継手に亀裂をもたらしたものであるから、複雑な事件であり、被告の責任が当初から明白であると言えず、被告の応訴を違法と言うことはできない。原告の主位的請求(補修契約に基づく請求)、第二次請求(不法行為による損害賠償の請求)が認容されないことからしても被告の応訴を違法と言うことは相当でない。よって、原告の弁護士費用の請求は理由がないので棄却することとする。

一五  結論

以上の次第で原告の請求は、不当利得返還として主文第一項の限度で理由があるので認容することとし、その余は失当であるので棄却を免れず、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九四条を適用し、仮執行の宣言は相当でないのでその申立を却下し、主文のとおり判決する。

(裁判官 井上正明)

<以下省略>

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